当センターにおける基礎・臨床研究について
救命センターと言えば、他科に比較して臨床一本やりのイメージがあるかと思います。しかし、ありとあらゆる最新の治療を尽くしても立ちふさがる壁に阻まれる症例も多く経験します。救命という観点だけではありません。救命し得たとしても、後遺症にて日常生活への復帰が果たせない症例もあるのです。治療の限界、これは重症病態の病因が本質的に解明できていないことに起因しています。そのため、救急・集中治療領域においても、世界的に様々な方面からの基礎研究が活発に行われています。
[参考文献]
救急・集中治療医学レビュー(最新主要文献と解決)2012-'13 総合医学社
V章 救急・集中治療に関連した重要事項
3. 敗血症(sepsis)と全身性炎症反応症候群(SIRS) 小倉裕司,山川一馬
7. 救急・集中治療における基礎医学トピックス 松本直也
全身侵襲に対し,生体はどのような応答をして克服していくのか,そのメカニズムを明らかにしなければなりません。侵襲下では炎症が誘導されます。本来,炎症は損傷を受けた組織が修復するための大切な過程です。しかし,重症患者においては炎症の嵐が持続し,さらに自身を障害する病態が存在します。なぜ,重症患者では,炎症の制御が破綻してしまうのでしょうか。一方,重症患者は感染に弱いという一面も持ち合わせています。過剰な炎症と免疫抑制が共存するという不可思議な現象に陥る例が多々認められます。
救急・集中領域の治療は日々進歩しています。先進的な装置を用いて呼吸,循環を管理し,代謝・栄養を改善する技術の恩恵を被っています。しかし,全身炎症の鎮静化,合目的的な免疫の賦活を根本から成し得る治療は皆無に等しいのです。これこそが救急分野の治療限界といって過言ではないでしょう。
大阪大学大学院医学系研究科生体統御医学救急医学講座(大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター研究室)では、この限界を突破すべく、急性病態重症化の解明と新たな治療の開発を目指しています。
動物モデルとして
・敗血症
・クラッシュ症候群
・熱中症
・脳虚血
・頭部外傷
・心肺停止
を用いながら、細胞培養実験と組み合わせて、組織学的、生理学的、分子生物学的な解析を行っています。
特に、現在では、炎症を惹起する自己由来の物質(DAMPs: damage-associated molecular patterns)の新規同定、全身炎症・凝固機能異常・ショックの根幹をなす血管内皮細胞障害に注目して、重症病態の解明を行うと同時に、新規薬剤・細胞治療の効果を判定し、実際の臨床応用に向けた新たな治療法の開発を進めています。
[共同研究施設]
・京都大学工学研究科医学研究科安寧都市ユニット
・大分大学医学部麻酔科学講座
・藍野大学藍野再生医療研究所
・理化学研究所生命システム研究センターナノバイオプローブ研究チーム
・大阪大学大学院薬学研究科毒性学分野
・大阪大学大学院薬学研究科生命情報解析学分野
・大阪大学大学院医学系研究科各研究室
- 敗血症・多臓器不全の病態解明、治療開発
- 中枢神経系傷害に対する保護・再生医療
- 外傷モデルの開発と外傷による多臓器不全発症のメカニズムの解明、治療開発
- 重症頭部外傷に対する治療戦略
- 急性脳腫脹の病態解明
- 頭部外傷 Talk and Deteriorate症例への新たな治療
- 初療一体型CTシステムの構築
- 全身性炎症症候群(SIRS)患者に対するシンバイオティクス療法の効果
- SIRS患者におけるマイクロパーティクルの動態解析
- 敗血症性DICに対するDIC治療薬の有効性
- 重症患者におけるミトコンドリア機能障害の評価
- 重症感染症におけるNETs(neutrophil extracellular traps)の役割
- 救命救急センター搬送症例におけるHAE(遺伝性血管性浮腫)疫学調査
- 病院外心停止に対する包括的治療体制の構築に関する研究
- 病院職員に対する「胸骨圧迫のみ心肺蘇生法」の教育効果
- 救急活動記録を用いた医療体制の実態把握並びに改善を目的とした地域網羅的疫学研究
- スマートフォンアプリを用いた新たな救急医療サービス提供システムの研究開発