救急活動記録を用いた医療体制の実態把握並びに改善を目的とした地域網羅的疫学研究
本邦においては近年救急搬送数が増加しており、救急搬送に要する時間は延長するといった救急医療体制に関する課題が存在します。しかし、これまで救急医療体制の実態に関する臨床研究は本邦では十分に行われていません。救急活動記録とは、全救急出動事例を対象に傷病者の救護・搬送に関して救急隊員が詳細に記録したものです。本研究では、大阪市消防局の協力のもと、大阪市において出動した全救急出動事例を対象に匿名化した救急活動記録を詳細に分析しています。対象となる人口は約270万人で、これだけの人口規模で地域網羅的に収集した「ビッグデータ」を解析し得られた成果をエビデンスとして発信することを通じて、病院前における救急医療体制の改善、一般住民への救急医療に関する情報発信・教育・啓蒙、さらには救急患者の予後改善のための方策に役立てることを目的としています。近年社会問題化している「救急搬送困難(いわゆるたらい回し)」の発生について、高齢者、夜間帯、祝祭日(週末含む)、外国人傷病者、加害事案による負傷などの要因が関連していることを本研究によって明らかにしました(BMJ Open 2016;6: e013849 doi:10.1136/bmjopen-2016-013849)。本研究は大阪大学大学院医学系研究科環境医学教室、京都大学健康科学センター、東京女子医科大学公衆衛生第2講座と共同で行っています。