初療一体型CTシステムの構築
当センターは昭和42年に全国に先駆けて重症外傷診療の専門施設(前身は特殊救急部)として設立されました。現在も外傷診療をはじめ重症患者診療の最後の砦として診療活動に当たっています。 重症外傷は当センターが最も得意とする分野の一つです。
CT検査は救急領域においても診断のための極めて有用な情報源となります。しかし、全身状態が不安定な重症外傷症例に対しては、救急搬送されると同時にすぐに治療を開始しなければなりません。従来の方法でCT検査を行うとCT検査室へ移動するのに時間がかかるため治療の開始が遅れたり、ベッドを移動する際に体を動かす事によって更なる損傷(怪我)を来す恐れがあるため、救命出来ない可能性が高くなります。外傷初期診療ガイドラインでは、CTは『死のトンネル』と呼ばれています。重症外傷症例の診療では全身状態(呼吸が出来ていて酸素が全身に巡っているか、意識が悪くなってないか)や命に関わる損傷か存在するかどうか判断するために胸部・骨盤レントゲン、超音波検査(FAST:Focused Assessment with Sonography for Trauma:肺や心臓の周り、おなかの中に血が溜まっていないか調べる検査)に基づいて治療を開始します。確定診断(どの臓器がどのくらい損傷しているか)は必ずしも求められません。
このようにCT検査は重症外傷症例が病院に到着したときに、一番最初にする診療において重要と位置付けられていません。近年CT機器は目覚ましい進歩をとげ、高速化・高性能化しているので診断能力は飛躍的に向上しています。言い換えれば、非常に重症な外傷症例に対して来院間もなく、どこが損傷しているのかより正確に把握出来る可能性が出てきたのです。当センターでは外傷初期診療にCT検査を組み込み、体の損傷を出来るだけ早く明らかにし、複数ある損傷の中で命に関わる損傷を優先して治療を開始する準備をして参りました。 2010年4月に救急外来初療室とCT検査室の大改修を行い、CT台上で外傷初期診療が出来る『初療一体型CTシステム』を構築しました。つまり、傷病者は救急車から直接CT台の上へ直接運ばれるのです。これにより前述のように,外傷診療で従来行われてきた胸部・骨盤レントゲン、超音波検査にかかる時間より早くCT検査が終了するのです。
このCT台上では気管挿管やCPR(cardiopulmonary resuscitation:心肺蘇生)をはじめ、緊急開胸・開腹手術・穿頭術といった命を助けるために時として行われる手術にも対応できるようになっています。全身状態が不安定な場合でも、移動によるタイムロスやベッド移動で体を上下させる事による出血や損傷の拡大がなくなり、CT検査を短時間で安全に施行することが可能となりました。
現在、当センターでは外傷初期診療にCT検査を組み込むことにより診断率及び救命率の向上が得られるか前向き臨床研究を行っています。