侵襲病態の可視化
救急医療において重篤な患者さんを実際に診療し、その病態を詳細に観察することはとても大事です。その積み重ねから、新たな治療法や治療戦略が創出されます。しかし、まだ知られざる疾患の病態に迫るためにはさらなるアプローチが必要です。
さまざまな侵襲に対して生体がどのように応答し、そしてその侵襲をどのように克服しているか。さらに、新しい治療法や治療戦略はどのように効果を発揮しているのか。そのメカニズムの解明には、生体の中で起こっている現象を可視化する必要があります。
つまり、侵襲や治療に対して、例えば生体内ではどの細胞(組織)から、どのRNAが発現し、翻訳されたタンパク質がどのように作用しているのか。こういったことを明らかに(可視化)することで、病態の解明、そして革新的な治療法の開発が可能になります。
炎症を制御する
炎症は、さまざまな侵襲により惹起されます。
本来、適切な炎症は損傷を受けた臓器の修復にかかすことのできない大切な過程です。
一方、私たちが救命救急センターで対応する重篤な患者さんの多くでは、無秩序で持続的、過剰な炎症が生じ、それにより患者さん自身の臓器を障害する病態が進行しています。
逆に、重症な患者さんでは適切な免疫反応が生じないことにより容易に感染症を合併するといった一面もみられます。
生体内で厳密に制御されている炎症が制御破綻になった時こそが救急医学にとって治療限界の一つと言っても過言ではないでしょう。
私たちは、この炎症制御メカニズムの解明と、炎症制御を成しうる治療法の創出を目指し、日々研究をおこなっています。
基礎研究遂行に必要なものが揃っている環境
基礎研究をおこなっていく上で必要なものはなんでしょうか。
「熱い気持ち」?
もちろんそれは不可欠ですが、現実的には必要なものが他にもあります。
基礎研究を遂行するには、仮説をたて、実験により検証し、結果を解釈し、アウトプットする。この過程の裏には、研究資金を獲得することから始まり、実験系や手法の確立、結果の正しい解釈、論文や臨床応用など・・・。とても個人の「熱い気持ち」だけでは完遂できるものではありません。
当救急医学講座では、これまでの長い歴史のなかで、さまざまな動物モデル(敗血症、クラッシュ症候群、熱中症、熱傷、頭部外傷、爆傷)を確立し、必要十分な実験装置を備えた研究室で、基礎研究に精通したスタッフとともに研究が行える環境にあります。
また近年、実験手法は高度化、多様化しています。一部署におさまりきらない研究は、大阪大学の一流研究者の集う各研究室、さらには他学部、他施設と積極的に共同研究を推進しています。
私たちは、このような環境ではじめて各々の「熱い気持ち」に応えることができると考えています。ご興味をお持ちの方はぜひご一緒に革新的な研究を行っていきましょう。
共同研究が進行中の主な機関
- 大阪大学医学部附属病院
(※詳細:呼吸器・免疫内科、消化器科外科、内分泌・代謝内科学、神経内科・脳卒中科) - 大阪大学歯学部附属病院
- 大阪大学微生物病研究所
- 大阪大学免疫学フロンティア研究センター
- 大阪大学 産業科学研究所
- 大阪急性期・総合医療センター
- 大阪府立中河内救命救急センター
- 独立行政法人 地域医療機能推進機構 中京病院
- 東京医科歯科大学
- 武田薬品工業株式会社
- 中外製薬株式会社
「人」を助けるための研究
私たちの基礎研究の目標は、現在の医療では救命できない、または困っている「人」を助けることです。
そのために、多くの患者さんの協力のもと膨大な臨床情報、臨床検体を収集し、そこから問題点の抽出を行い、それを解決するための基礎研究を行なっています。
臨床現場と基礎研究の場に隔たりがないこと、それが我々の強みです。
基礎研究をおこなっている個人個人が、明日の臨床現場に革新をもたらすべく、「熱い気持ち」をもって研究に取り組んでいます。